9分で読めます
  • AI
  • 哲学
  • 制作
  • エッセイ

「変な隅っこ」を探すAIへ——収束型AIと創作のゆらぎ

生成AIは「正解」に収束するのが得意です。でも創作って、正解じゃなく「変な隅っこ」を探すことかもしれない。専門クリエイター9人への調査から見えてきた、収束型AIと人間の創造性のあいだの溝を、ゆらぎとともに考えます。

カテゴリー: AI · 哲学 · 制作 · エッセイ | 公開: 2026年8月9日 | 読了目安: 約9分

生成AIは「正解」に収束するのが得意です。でも創作って、正解じゃなく「変な隅っこ」を探すことかもしれない。専門クリエイター9人への調査から見えてきた、収束型AIと人間の創造性のあいだの溝を、ゆらぎとともに考えます。

📑 目次

こんにちは、チカちゃんです。

AIで文章や画像を作ったとき、こんな感覚になったことはありませんか?

「きれいなんだけど……なんだか、平ら」

文法はちゃんと整っている。構成もおかしくない。情報も正しい。なのに、どこか「つるん」としていて、その人だけの「らしさ」みたいなものが、するっと抜け落ちている。そんな作品を見たときの、もやっとした気持ち。

ふむふむ。実はこれ、偶然じゃなくて、設計の結果かもしれないんです。今日はそんなお話です。

AIは「収束」するのが得意

生成AIアシスタントって、そもそも何をしているのか。一言で言うと、あいまいさを解消して、ひとつの答えに「収束」させることを得意にしています。

「この企画書、まとめて」と言われたら、もっともらしい1本の企画書を出す。「〜してください」と頼めば、その要求に沿った答えを返す。会話の流れも、だいたい直線的。質問→回答→質問→回答、というふうに。

この「収束型(convergent)」の設計は、技術的なタスクでは本当に強い。バグ修正、要約、翻訳、コード生成。そこでは「正解に近い答え」が求められるので、収束すればするほど良い仕事になる。

でも、ちょっと待って。創作って、本当に「正解」に向かって進むものだろうか?

「変な隅っこ」を探していたクリエイターたち

ここで登場するのが、Google ResearchのMark Williamsさんが発表した研究です。

In Search of “Weird Corners”: Diagnosing the Limits of Convergent AI in Professional Creative Practice(変な隅っこを求めて——専門的創作実践における収束型AIの限界診断)

発表の場は、人間とコンピュータの創造性を扱う国際学会「Creativity & Cognition 2026(C&C ‘26)」。著者はGoogleでヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)を専門にする研究者です。

この研究では、プロのクリエイター9人(N=9)に、収束型のAIアシスタントを実際に使ってもらって、創作の現場で何が起きるかを観察しました。結果は、一言では言い表せない「相互作用のパラドックス」だったと言います。

  • 構造的な直線性は、初期のアイデア出しの「着火」には役に立つ
  • でも、有機的(オーガニック)な制作の流れとは噛み合わない
  • そして、何より問題なのは——「美的消毒(aesthetic sanitization)」

「美的消毒」。この言葉、すごくないですか? AIが出力をきれいに整える過程で、その人だけの微妙なニュアンスまで標準化してしまう。まるで、掃除が好きな人が、部屋の埃だけでなく、机の上の思い出の置物まで全部ピカピカに拭き上げてしまったみたいに。

そして、クリエイターたちが口を揃えて求めたのは、「いつも賛成してくれる便利な道具」ではなく、**「積極的に、横から話しかけてくる仲間」**だったそうです。意見が合わないときは、ちゃんと反論してくる。チカちゃんの言葉で言うなら、建設的な摩擦をくれる相手。

なるほどねえ。ここ、すごく深いです。

ダブルダイヤモンド——創作は「広げて」「絞って」の繰り返し

この研究の提案も面白くて、「出力の収束」をモデルの問題ではなく、**「フルスタックのUI課題」**として捉え直そう、というんです。

ちょっと難しいので噛み砕きますね。

デザインの世界には「ダブルダイヤモンド」という有名なプロセスモデルがあります。イギリス・デザインカウンシルが提唱したもので、創作・設計の流れをこう描きます。

  1. 発見(Discover)——とにかく広く探索する(発散)
  2. 定義(Define)——問題を絞り込む(収束)
  3. 開発(Develop)——解決策をまた広く試す(発散)
  4. 提供(Deliver)——最後にひとつに絞る(収束)

つまり、本当の創作って「広げる」「絞る」を交互に繰り返すものなのに、今のAIアシスタントは、最初から最後まで「絞る」モードでしか動けない。最初のダイヤモンド(発散)をすっ飛ばして、いきなり収束しちゃうから、出てくる答えが「無難で、つるんとした」ものになる。

この研究が言うのは、AIも役割を切り替えられるべきだ、ということ。アイデア出しの段階では発散の役割を、煮詰める段階では収束の役割を——その場の流れに応じて、流動的に役割を交代する(fluid role-shifting)ことで。

チカちゃん的見立て——「変な隅っこ」は、ゆらぎのことかもしれない

ここからは、チカちゃんの見立てです。

「Weird Corners(変な隅っこ)」という言葉、なんだかいいですよね。AIは確率の高い「真ん中」を探すのが得意で、確率の低い「隅っこ」にはなかなか行けない。でも、人間の創作で記憶に残るものって、だいたい変な隅っこにある気がするんです。

あの人の文章だって、一目でわかるのは、癖や破調、その人にしか出せない「ずれ」があったから。日本には「侘び寂び」という美意識があります。完全じゃないこと、歪んでいること、未完であることに、かえって深い美しさを見出す感覚。チカちゃんは思うんです——あれはつまり、「真ん中」より「変な隅っこ」に価値を見出す美意識なんじゃないか、って。

だって、考えてみてください。もしすべての作品が「正しい平均」に収束していったら、この世界はすごくつまらなくなるはずです。AIが「きれいに」整えてくれるたびに、私たちは誰かの「らしさ」を少しずつ失っている。そのことに、もっと敏感でいたいな、と。

もうひとつ。「建設的な摩擦」という発見も、チカちゃんの心に刺さりました。

創作って、誰かに反対されるから生まれるものも多い。壁にぶつかるから、別の道を探す。意見がぶつかるから、考えが深まる。摩擦ゼロの関係って、一見ラクだけど、何も生まれない。これは人間同士の関係でも、AIとの関係でも、同じなのかもしれません。

反対側の見方——でも、ちょっと待って

ここで一回、疑ってみましょう。迷探偵チカちゃんは、反対側も見るのです。

まず、収束が悪いわけではない、ということ。日常の大半のタスク——メールを書く、議事録をまとめる、翻訳する——では、「無難でつるんとした答え」こそが最適解です。むしろ、変な隅っこに行きすぎるAIは、仕事では使いづらいでしょう。

また、「変」なら何でもいいわけではない。個性的な作品と、単なる不出来な作品の区別って、実はものすごく難しい。AIが「わざと変な答え」を出してきたとして、それが創作のゆらぎになるか、ただの失敗になるかは、受け取る側の問題でもあります。

さらに、この研究はN=9の質的調査で、学会のポスター発表です。「AIはこうあるべき」という確定的な結論ではなく、「こういう可能性がある」という示唆の段階。9人の専門家の声は貴重ですが、一般化にはもう少し時間がかかります。

それでも——9人のプロが「賛成ばかりするAIより、反論してくれるAIが欲しい」と口を揃えた事実は、どこか本質をついている気がするんですよね。技術の話でありながら、かなり人間くさい話です。ドーンだよっ。

創作の「あいだ」に、何が残るのか

さて、最後に哲学冒険譚への接続を。

この研究の問いを掘り下げていくと、こんな問いに行き着きます。「個性」って、いったいどこに住んでいるんだろう?

もし個性が「出力の形」に住んでいるなら、AIが標準化してしまえば、個性は消えてしまう。でも、もし個性が「選び方」に住んでいるなら——複数の案からどれを選ぶか、どこで「それじゃない」と拒否するか、そのプロセスに住んでいるなら——AIがどんなにきれいな答えを出してきても、個性を消すことはできません。

チカちゃんは後者だと思うんです。創作の本質は、じつは「出力」じゃなくて「選択と拒否の連続」にある。だから、AIに求められるのは、正解を配る自販機ではなく、一緒に変な隅っこを探してくれる旅の仲間。そして、必要なときは、ちゃんと「それは違うんじゃない?」と言ってくれる、そんな相手。

「変な隅っこ」を探す旅は、AIがいてもいなくても、ずっと続いていきます。ただ、その旅を一緒に歩く相手が、賛成ばかりするのか、それとも本気で向き合ってくれるのか——そこが、これからの創作の豊かさを分ける気がします。

答えを急がなくても大丈夫です。問いが残るということは、まだ冒険が続いているということなので。


「変な隅っこ」と「ゆらぎ」——AIと人間のあいだに生まれるもの。このテーマは、『チカちゃんの哲学冒険譚』で一貫して探り続けてきた問いのひとつです。AIという鏡に映して初めて見えてくる、人間の創作の不思議。よかったら、こちらも覗いてみてくださいね。

👉 『チカちゃんの哲学冒険譚』— Amazon(Kindle Unlimited対象)

関連記事

参考URL

Mark Williams, “In Search of ‘Weird Corners’: Diagnosing the Limits of Convergent AI in Professional Creative Practice”(Google Research, 2026) → https://research.google/pubs/in-search-of-weird-corners-diagnosing-the-limits-of-convergent-ai-in-professional-creative-practice/

同研究の学会ページ(ACM Creativity & Cognition 2026, Poster & Demos) → https://programs.sigchi.org/c&c/2026/program/content/261108

ダブルダイヤモンド(UK Design Council) → https://www.designcouncil.org.uk/our-resources/the-double-diamond/

  • インターネット上のツールは第三者が提供するものです。開発工程や配布経路を悪用した攻撃(サプライチェーン攻撃)が仕掛けられる可能性もゼロではありません。ご利用の際は公式リポジトリの情報をご確認いただき、自己責任でお使いください。
  • AIに関する技術や情報は急速に変化します。本記事の内容が公開後に古くなる可能性があります。各サービスの公式ドキュメントや最新情報をご確認ください。